* シリコンV(2)二度目のサンディエゴの空
Posted on June 7th, 2009 by tomoya. Filed under 思った, 行った.
太平洋時間、2009年3月28日午後2時。
まさにカリフォルニアの陽気な日差しが昼下がりの小さなカフェに照りつける。
日差しのわりには、気温はそれほど高くない。時折海からなびく風が涼しく首筋をなでる。
La Jolla海岸。
San Diegoから車で20分ほどの北に向かったところに位置する美しい街。
La Jollaには、青い空と碧い海があり、街中には、現代美術館、ギャラリー、ブティック、それに、居心地のいいレストランがある。
知り合いと別れて一人になったばかりだった。
散歩に出かけて海を眺め、浜に降りて、アザラシと遊ぶ。日で肌が火照ったら、陰のある芝生で横になるか、カフェに避難する。
ぼくは、そんな時間を満喫していた。
あわただしくも刺激にあふれた9日間が去った後だけに、南国の午後のこの時間が止まったような静けさが、とても信じられない。
5年前、はじめてアメリカに渡ってきた時にも、ここにいた。Tシャツに短パンの観光客が多い中で、ひとりだけ場違いなコート姿でいた。
足元からはじまり遥か彼方視界の向こうへと伸びている海をよく眺めた。
海岸の裏の公園で、いたずらな時間を過ごしている。
ヤシの木が立ち並び、芝生が敷き詰めてある。
揃ってお腹の出た夫婦が寝ている。犬を連れたカップルがサンドイッチをかじってる。ボールを追いかけていた子供が転ぶ。
ぼくの方に犬がやってきた。犬に話しかけてみる。飼い主は、こちらの様子を見て、微笑んでいる。
–He knows. He understands what you told.
飼い主が犬の気持ちを代弁してくれる。ありがとう。
ごろりと、芝生に寝転がった。
この9日間に、ほんとに多くの人と話した。会話の情景を思い出したり、あの時どうしてもっと詳しく質問しなかったのかと悔しがったりする。それから、これから先の自分の生活を思い、ちょっぴり日本のことを思う。
ふわふわ泡のように、気持ちや主張が去来する。何色もの想念が立ち現れては、すぐに消えた。
会社は3月末で退職することになっている。これからはもう、組織の論理に自分を犠牲にするつもりはない。
ただひたすらに、好きなことをする。
そのことだけが、自分の武器を強くする。
強い武器を持って、世界の舞台に躍り出る。
そこで、最高に刺激的な人と切磋琢磨する。
1日が100年にも感じられるようなそんな濃密な毎日を過ごしていきたい。
それが幸せなんだと思う。
どんな力がぼくの中に渦巻きだしているのだろう?
名誉、収入、知的興奮。それももちろんあるけど、だけど、それだけじゃない。
自分を試してみたい、試されたいという、好奇心なのだ。
自分の肉体、自分のマインド、自分の経験、思考、能力、涙、すべてを出しきってみたい。
ぼくの中に渦巻きはじめた力がダイナモとなって、ぼくをつき動かす。ぼくはただその力に従って、走り出せばいい。
苦しくもないし、難しくもない。
留学に来た5年前よりもさらに5年前、つまり18歳のぼくが考えていたことをときどき思い出す。
精神科医という職業に憧れていた。
ぼくは、精神科医を、人の心の奥底に潜む謎に満ちた世界に分け入る探検家のように思っていたのだ。
100年前の南極をExploreした探検家アムンゼンのように、21世紀の精神科医は人の抱く夢や感情・幻想をExploreする。
そこで、生きることの悲しみや苦しみの素を探し当て、ざっくり持ち帰って、解体する。
人を苛ませる悪玉を取り除き、心の闇を解放して、ふたたび笑顔が戻るように、ヒールする。
いわば、シャーマンとか呪術師に近い宗教的な存在として思い描いていたのかもしれない。
たしかに、超越的な存在に憧れた。18歳というのは、とても若いのだ。
とはいえ、あの当時の自分には、人を癒せるだけの具体的な手段も能力も経験もなにもなかった。
しかし、それ以上に欠けていたものがある。
だれかと協力してチームを組むという意識がまるでなかった。一人でなにもかもやることつもりでいた。
必要な知識は全部自分ひとりで吸収し、必要な能力は全部ひとりで賄う。
誰もあてにするつもりはなかったし、実際誰もあてにしていなかった。
しかし、あれから10年経って、たくさんの失敗と挫折を繰り返して、今ようやく自分ひとりでできることは、世界の厖大な可能性に比べて、あまりに限定されていることを知るようになった。
”A good team is always more productive than an indivisual.”
La Jollaの最高においしいレモネードのあるカフェで、カリフォルニアの熱気にあおられながら、そんなことを噛みしめていた。
3月19日から10日間、シリコンバレーで過ごした期間は、ぼくヒラノトモヤの凡庸でありふれた人生に捧げられた奇跡的な時間だった。
いや、大げさだけど、本当に。
シリコンバレーでどのような体験をし、何を感じ取り、そして何を言葉として残しておきたいと考えたのか、綴っていきたいと思う。
脚色めいているけれど、これはフィクションではない。
(写真は、La Jolla海岸の風景)
目次
- はじめに
- 二度目のサンディエゴの空
- 会社組織を覗き込んだらそこは闇だった、シリコンバレーにはなにかあると思った [SVC参加について]
- エンジニアですか、それ以外のなにかですか? [自己紹介について]
- 声をあげよ! [コミュニケーションについて]
- ビジネスを走らせる [起業について]
- たとえリーダーはいなくとも [仲間について]
- 風向きは変わった。さあ、どうする? [時代について]
- 種をまく – 消えることのないもの
- 旅行記
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